2014年01月30日

土地や建物など不動産の名義変更登記をするなら

自宅不動産の名義は誰ものになっているでしょうか?名義人が父親になっていたとして、父が亡くなったときには、その自宅不動産の名義を変更する必要があります。この名義変更手続きのことを、相続による所有権移転登記といいますが、一般には相続登記(そうぞくとうき)と言っています。

相続登記の管轄(松戸の場合)

相続登記は、その不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)でおこないます。千葉県松戸市、流山市に所在する不動産であれば、千葉地方法務局松戸支局(松戸駅から徒歩10分弱)が管轄法務局となります。ただし、不動産を相続する人が法務局にいけば簡単に名義変更手続きが出来るかといえば、そういうわけではありません。

不動産という大切な財産の名義(所有権)を表すための登記手続きをおこなうのですから、本当にその人が不動産の所有権を取得したのかを、法務局の登記官に対して証明しなければなりません。相続の場合であれば、自分が相続人であることを証明するために、多数の戸籍謄本を用意する必要があります。

また、複数の相続人がいる場合には、自分がその不動産を相続したことを証明するために遺産分割協議書を作ります(遺言書が無い場合)。そして、相続人全員が署名押印(実印)し、印鑑証明書を添付します。これにより、相続人全員がその遺産相続に合意していることが証明できるわけです。

相続登記は司法書士へ

相続登記をおこなうには、このように多くの難しい手続きや書類作成が必要になりますから、法律専門家で無い一般の方が自分で手続きをおこなうのは困難です。したがって、通常は不動産登記の専門家である司法書士に依頼することになります。

不動産登記をおこなえるのは、法律上、司法書士と弁護士に限られます。ただし、相続登記の依頼を日常的に受けている弁護士はほとんどいないと思われるので、現実に相続登記を依頼するとすれば、司法書士が唯一の選択肢となります。

なお、相続手続きの専門家であると宣伝している行政書士も多いですが、行政書士は不動産登記をおこなうことはできません。もし、依頼をするならば戸籍謄本等の収集と、遺産分割協議書の作成までです。その後の手続きは司法書士に依頼するしかありません。

ただし、司法書士に相続登記を依頼した場合、戸籍謄本等の収集と、遺産分割協議書の作成も司法書士がおこないます。したがって、事前に費用を払って行政書士に依頼する必要は全くありません。相続登記をするならば、最初から司法書士に依頼するのがベストです。

司法書士の探し方

相続登記を司法書士に依頼した場合の費用はまちまちです。事前に電話で費用の目安を教えて貰ったり、依頼する前に見積もりをして貰うようにするべきでしょう。地元の司法書士を探すには、法務局の周りを探してみるのも良いですが、タウンページを見たり、現在では、ホームページを開設している司法書士も多いので便利です。

松戸市の場合、松戸駅の東口側に数多くの司法書士事務所があります。ホームページであれば、松戸の司法書士などのキーワードにより検索してみるのが良いでしょう。相続登記が無事に完了したとすれば結果はどの司法書士に依頼しても同じです。しかし、費用や接客態度は司法書士によって異なりますから、安心してまかせられる司法書士を探すのが大切です。

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2014年01月20日

東京に生れて

東京に生れて 芥川 竜之介 

僕に東京の印象を話せというのは無理である。何故といえば、或る印象を得るためには、印象するものと、印象されるものとの間に、或る新鮮さがなければならない。ところが、僕は東京に生れ、東京に育ち、東京に住んでいる。だから、東京に対する神経は麻痺し切っているといってもいい。従って、東京の印象というようなことは、殆んど話すことがないのである。

しかし、ここに幸せなことは、東京は変化の激しい都会である。例えばつい半年ほど前には、石の擬宝珠のあった京橋も、このごろでは、西洋風の橋に変わっている。そのために、東京の印象というようなものが、多少は話せないわけでもない。殊に、僕の如き出不精なものは、それだけ変化にも驚き易いから、幾分か話すたねも殖えるわけである。

住み心地のよくないところ
大体にいえば、今の東京はあまり住み心地のいいところではない。例へば、大川にしても、僕が子供の時分には、まだ百本杭もあつたし、中洲界隈は一面の蘆原だったが、もう今では如何にも都会の川らしい、ごみごみしたものに変わってしまった。殊にこの頃出来るアメリカ式の大建築は、どこにあるのも見にくいもののみである。その外、電車、カフェ、並木、自動車、何れもあまり感心するものはない。

しかし、そういう不愉快な町中でも、一寸した硝窓の光とか、建物の軒蛇腹の影とかに、美しい感じを見出すことが、まあ、僕などはこんなところにも都会らしい美しさを感じなければ外に安住するところはない。

広重の情趣
尤も、今の東京にも、昔の錦絵にあるような景色は全然なくなってしまったわけではない。僕は或る夏の暮れ方、本所の一の橋のそばの共同便所へ入った。その便所を出て見ると、雨がぽつぽつ降り出していた。その時、一の橋とたてがはの川の色とは、そっくり広重だつたといってもいい。しかし、そういう景色に打突かることは、まあ、非常に稀だろうと思う。

郊外の感じ
序でに郊外のことを言えば、概して、郊外は嫌いである。嫌いな理由の第一は、妙に宿場じみ、新開地じみた町の感じや、所謂、武蔵野が見えたりして、安直なセンチメンタリズムが厭なのである。そういうものの僕の住んでいる田端もやはり東京の郊外である。だから、あんまり愉快ではない。
posted by souzoku at 19:51| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月17日

財産相続人(6)


 キャラコさんは、これを機会に、秋作氏のすすめにしたがって、すこしの間ほうぼうを歩いて見ることにきめた。
 箱根町の小さな旅館へ引き移って、旅行の支度をしようと思って町へ買物に出ると、町かどの電柱に、脇坂わきざか部隊の戦傷勇士佐伯軍曹が、本町有志の熱心な懇請こんせいによって、今日午後一時から処女会の講堂で実戦談を行なわれることになったというビラがはりだしてあった。
 蘆あしの間で、ほのぼのと木笛フリュートを吹いていたわびしそうな姿が眼にうかぶ。あの佐伯氏がどんな切実な働きをしたのか聴いてみたくなった。
 会場へ行くと、入口に大きな国旗をつるし、
南京ナンキン光華門突入決死隊の一人、佐伯軍曹軍事講演会々場
 という大きな紙の立看板がたてかけられてあった。
 講堂にはもう大勢の聴衆がつめかけ、演壇の両側には町の役員らしい人たちがズラリとい並んでいる、前列のはしに、佐伯氏が、すこしうつ向き加減になって、茜さんと並んで掛けていた。
 キャラコさんは、うしろから突かれてとうとう演壇から二列目の椅子のところまで押しだされ前の人の背中に隠れるようにして坐っていた。
 定刻になって、司会者のながながしい紹介が終ると、とどろくような拍手が起こり、佐伯氏が茜さんに手をひかれて、演壇あがってきた。
 昂奮しているせいか、いつもより顔の色が悪く、ソワソワして、まるっきり落ち着きがなかった。水差しの水を一杯飲んでふるえるような手つきで唇をぬぐうと、聞きとりにくいほどの低い声ではなしはじめた。
「……南京城攻略戦は、……南京城壁、東南方から開始されまして、……十日の午後五時、脇坂部隊は、工兵部隊の決死的城門破壊と間髪を入れず、光華門の一角を占領……」
 声がとぎれて、何をいっているのか最後のところははっきりと聞えなかった。顔が土気つちけ色になり、ハンカチを出してはしきりに額をぬぐう。倒れるのではないかと思って、キャラコさんは、気が気でなく伸びあがって佐伯氏の顔ばかり見つめていた。
 佐伯氏は演壇に両手をついて首を垂れていたが、しばらくののち、顔をあげると、つぶやくような声でつづけた。
「……午後五時廿分、山際やまぎわ、葛野くずの両勇士麾下きかの決死隊士によって光華門城頭高く日章旗が掲げられますと、伊藤中佐につづいて、……われわれ……」
 壇に手をついて、肩で大息をつき、
「われわれ、……一同……」
 もう、倒れる。……キャラコさんは、夢中になって、われともなく、
「ああ」
 と、大きな声をあげた。
 佐伯氏はギョッとしたように、急に顔をあげてキャラコさんのほうを眺めていたが、聴衆のほうへ向き直ると、とつぜん、
「申し訳ありません。……実に、どうも、不敵千万な……」
 と、いうと、声をあげて演壇の上へ泣き伏してしまった。
 講堂の一同は、何事かと眼をそばだてているうちに、佐伯氏は、錯乱したように演壇を駆けおりると、人波ひとなみをおしわけながら入口から走り出して行ってしまった。

 キャラコさんは、旅の身じたくをして箱根町から発動機艇モーター・ボートに乗り、湖尻こじりの桟橋で降りた。
 渚の向うに、毎日、佐伯氏と落ち合っていた疏水の蘆が見える。
 いろいろな思いが、しずかに心のうえを流れる。
 佐伯氏の過去に、いったいどのような事があったのか察することができないが、なにか、たいへんな不幸か、たいへんな悩みがあったのだという事だけはわかる。あの狂い出したようなようすを見るにつけても、それが、どんなにかひどいものだったろうと、思いやられるのである。
 ……疏水のほうから、木笛フリュートの音がゆるゆると流れてくる。
 空耳そらみみではなかった。佐伯氏がいつも吹く、あのやさしげな曲である。
 キャラコさんは、なつかしさに耐えられなくなって、小走こばしりしながら、蘆の間へ入ってゆくと、佐伯氏は木笛フリュートを吹いたまま、いつものように、すこし身をすさらせて、キャラコさんの席をつくった。
 キャラコさんは、そのそばへ肱ひじをくッつけて坐った。
 佐伯氏は、もうあの黒い眼鏡をかけていなかった。どうしたのかと思われるほど、いきいきとした顔色をしていた。
 楽しそうに、ゆっくりと木笛フリュートを吹き終えると、男にしてはすこしやさしすぎる、深く澄んだ眼差しでキャラコさんの顔を眺めながら、いった。
「キャラコさん、私はあなたに、ひどい嘘ばかりついていました。どうか、ゆるしてください。……私の弱さのせいもありますが、それはともかく、そうしなければならない深い事情があったのですから……」
 キャラコさんは、黙ってうなずいた。
 佐伯氏は、言葉を切ってから、ちょっと例のないほど率直な口調で、
「……キャラコさん、驚かないでくださいね。私は、昨年の暮れから世間を騒がせていた三万円の拐帯かいたい犯人なんです」
 キャラコさんは、だまって佐伯氏の顔を眺めていた。自分でもふしぎに思われるほど静かな気持だった。
 佐伯氏は、両膝を抱いて、ゆるゆると身体をゆすりながら、
「こんな話は、お聞きになりたくもないでしょうが、でも、我慢して、もうすこしきいてください。あなたのご親切を、こんなふうに、長い間裏切っていたおわびのためにも、せめて、そうでもさせていただきたいと思うのです」
 キャラコさんは、微笑しながらこたえた。
「あたしにお詫わびになることなんかいりませんけど、それで気がすむのでしたら、どうぞ、なさりたいようになすって、ちょうだい」
 佐伯氏は、湖尻こじりの汽船発着所のほうへチラと眼を走らせてから、
「私は、今あなたが乗っていらしたモーター・ボートで箱根町へ行って自首するつもりなのですから、どっちみち、そんなに長い間お話はできないのです。……もう、時間もありませんから簡単にお話しますが、私も茜も、子供のときから、屈辱や不安や空腹などの鋭い切っ尖さきに絶間なくおびやかされて来た身の上だったのです。……ようやくの思いで小さな実業学校を出て、長い間就職口を探していますと、ある銀行の課長が私を使ってやってもいいというのです。ただし交換条件がある。……就職させてやるかわりに、茜と秘密の結婚をさせろというのです」
 キャラコさんは、思わず眼を閉じた。キャラコさんのような人生の経験の浅いものにも、それからどんな悲劇が起きたのか、これだけ聞くともうなにもかもわかるような気がした。
 佐伯氏は、眼に見えぬほど顔を赤らめて、
「……どれほど卑屈になじんでいたとはいえ、さすがに、そんなことまでする気にはなれませんでしたが、茜が泣いて説得するので、死んだ気になって承知しました。……そうさえすれば、二人とも、長い貧乏の中から浮びあがれるのですから。……ところが、それもいつまでもつづきませんでした。茜はたった二年で捨てられてしまい、そのあげく、こんどは私を解雇するといい出しました。……私は、貧乏だというだけの理由で、長い間、底知れぬ悪意や不親切や迫害に駆りたてられて、すっかりひねくれてしまい、人生とは、いつか復讐してやる値打のあるものだといつもそう考えていましたので、課長のひどい仕打ちにしかえしをするために、その日、支店へ送るはずの三万円の現金を持ち出してやりました。せめて、それくらいのことをしてやらなければ息がつまりそうだったのです。……それから不埓ふらちにも傷痍しょうい軍人になりすまして、茜と二人でほうぼう逃げ廻りました。やって見ると、思いがけなく困難な仕事でしたが、私たちは元気をなくしませんでした。自分のしたことが悪い事だとはどうしても考えられなかったからです。……愚かな話ですが、ざまア見ろとさえ思っていました。そんなにも、心がねじけていたのです」
 そういって、おだやかな微笑をうかべながらキャラコさんの眼を見かえし、
「……ところで、ここであなたにお目にかかるようになってから、とつぜん、私の前に新しい世界がひらけることになりました。……こんな親切な世界もあるのかと、呆気あっけにとられてしまったのです。……生まれたときから、ひとの不親切や、意地悪や、悪意ばかり眺めてきた眼には、とても真実なこととは考えられないのでした。……キャラコさん、あなたは、私の眼がかならず癒なおると茜におっしゃったそうですね。……実際、その通りでした。……なにも、ドクトルなどを呼んでくださる必要はなかったのです。……あなたの手で、ちゃんと私の視力をとり戻してくださいましたから。……つまり、心の視力をね。……それから、たびたびここであなたと逢って、人間の親切というものを深く心にしめるにつけ、自分のしていることがいかにも果敢はかなく思われてきて、新しい出発の動機をつくるために自首するといい出しました。……茜は、私の決心がにぶったのだと思って、いろいろな方法でそれを阻止しようとしました。あなたに逢えないようにしたのもそのためです。……しかし、どうか、茜をせめないでください。間違っていようとも、あれは、あれなりの真情で私を愛しているのですから。……嘘だったということは、今日はじめてわかりましたが、茜から、あなたが東京へ行かれたと聞くと、私は闇夜やみよの中でとつぜん光明を失ったような気持になって、また決心がにぶり、茜にすすめられて、今日のような不埓ふらちなまねをいたしましたが、でも、もう大丈夫です。私の決心はぐらつきません。贖罪しょくざいをして新しく生まれ変わったら、その身装みなりをお目にかけに行きます。……キャラコさん、私はあなたにひどい嘘をつきましたが、どうぞ、ゆるしてください。あなたにだけは、拐帯かいたい犯人だということを知られたくなかった。ここで語り合ったあの姿で、あなたの記憶にとどめて置きたかったからです」
 プツンと言葉を切ると、蘆の間でゆるゆると身体を起こしながら、
「……さあ、ずいぶんしゃべった。……では、そろそろ出かけることにしましょう。……いつか、私がそういいましたね。なんでもなくしてくださったあなたの親切が、私にどんなたいへんな影響をあたえたか、いつか必ずわかるときが来るって。……つまり、これが、その結果レジュルタです」

 キャラコさんは、発動機艇モーター・ボートの桟橋まで佐伯氏を送って行った。
 発動機艇モーター・ボートは渚を離れた。
 佐伯氏は船尾に坐って、ゆるゆると木笛フリュートを吹いている。
 岸では、キャラコさんが長い蘆を振ってわかれの挨拶をする。
 発動機艇モーター・ボートの影が見えなくなっても、木笛フリュートの音はまだきこえていた。
 次の日のひるごろ、キャラコさんと茜さんは、長尾ながお峠の頂上に立っていた。眼のしたに、蘆あしの湖こが、古鏡のように、にぶく光っている。
 キャラコさんは、ここから御殿場ごてんばのほうへくだり、茜さんは、仙石原せんごくばらのほうへおりて、それから東京へ職業しごとをさがしに行くのである。
 いよいよ別れる時がくると、茜さんが、いった。
「兄は、ほんとうにあなたを愛していたのではないでしょうか。あなたが立上たてがみ氏を呼んだと聞くとその夜、兄は夜半よなかにそっと起きあがって、稀塩酸きえんさんでじぶんの眼をつぶそうとしているのです。必死なようすでしたわ。……あなたにだけは嘘つきだと思われたくなかったのでしょう。……これだけ申しあげたら、この間、あたしがなぜあんなひどいことをいったか、わかってくださるでしょう。……ほんとうに、ごめんなさいね。……でも、あたしにすれば、あなたより、やはり兄の眼のほうが大切だったのですから……」
 二人は、右と左にわかれた。互いの姿が見えなくなるまで、手をふりながら。

不動産の相続登記



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財産相続人(5)

 次の朝、廊下の窓のそばの籐椅子とういすに掛けて本を読んでいると、廊下の向うのはしから茜あかねさんがひどくまっすぐな姿勢でこちらへちかづいて来た。
 ウールのレーンコートを着て、腕に外套をひっかけている。瘠やせているので、ほんとうの身丈みのたけよりずっと長身に見える。面おもざしは冷たすぎるほど端正たんせいで、象牙のような冴さえかえった色をしていた。
 廿二三だと思われるのに、どこか、ひどく老ふけたところがあって、娘がいきなり大人になったような妙な感じをあたえる。
 すらりと、キャラコさんのそばに立って、
「いいお天気ね。発動機艇モーター・ボートで箱根町のほうへ出かけてみません? すこし、お話したいこともあるのよ」
 否応いわせない、おしつけるような調子があった。
 キャラコさんは、きのうの返事がきけるのだと思って、急いで自分の部屋へ行って帽子と外套を持ってきた。
 二人は桟橋さんばしまで歩いて行ってそこで、発動機艇モーター・ボートに乗った。
 とりわけ、きょうは陽ざしが熱く、湖の面おもてはガラスのようにきらめいて、深い水底みずそこでときどきキラリと魚の鰭ひれが光った。
 モーターの響きがこころよく身体につたわる。茜さんは、眼を細めて、うつりかわる対岸の景色をながめたまま、いつまでもおし黙っている。キャラコさんは、すこし気味が悪くなって、
「お話って、どんなお話」
 と、おそるおそる切り出してみた。よくよく辛抱したあげくのことである。茜さんは急にこちらへ顔をふり向け、運転手のほうを眼で指しながら、
「ここでは、なにも申しませんわ。あなただって、それでは、お都合が悪いでしょうからね」
 と、謎なぞのようなことをいうと、また、クルリとむこうを向いてしまった。
 どういう意味なのか一向わからない。何かひどく腹を立てていることだけはわかる。しかし、どう考えて見ても、茜さんを怒らせるようなことをした覚えはない。
(いったい、何をいいだす気なんだろう)
 キャラコさんは、ひとりで首をひねっていたが、そのうちにめんどうくさくなって、そんなことにクヨクヨしないことにした。
 浮うきヶ島の近くへ来ると、発動機艇モーター・ボートは速力を落として、岬の鼻のところでとまった。
 茜さんは、ボートから降りると、岸づたいに岬の鼻を廻り、先に立って御用邸ごようていの下の深い林の中へズンズンはいって行く。
 キャラコさんは、なんだか嫌気いやきがさしてきて、ついて行きたくなくなった。
「お話って、こんなところでなければいけないことですの」
 茜さんは、キッと振り返って、冷酷な眼つきでキャラコさんを見すえると、
「それは、あなたのほうが、よくご存知でしょう。……逃げようたってだめよ。だまってついて来てちょうだい」
 と、甲高い声で叫んだ。
 キャラコさんは、閉口して、またトボトボと歩き出した。
 鬱蒼うっそうと繁り合った葉の間から、陽の光が金色の縞しまになってさし込んでいる。しんとして、小鳥の声のほか何の物音もきこえない。
 茜さんは、急に足をとめて、顎あごで指して、大きな切り株へキャラコさんを掛けさせると、自分は樹きの幹に背をもたせて立ったまま、悪く落ち着いた声で、
「……どう? ここなら、どんな話でもできるわね。……あたしが、こんなに気をつかってあげるのは、女のよしみだけですることなのよ。親切だなんて思いちがいしないようにして、ちょうだい」
 それにしても、わけのわからないことばかりいう。キャラコさんは返事のしようもなくておし黙っていると、茜さんは、唇のはしに皺しわをよせてジロジロとキャラコさんを見おろしながら、だしぬけに、
「キャラコなんて、ずいぶんトンチキな名ね。ひとを喰ってるわ」
 と、切って放すように、いった。すこし無礼だと思ったが、キャラコさんは、笑いながら素直にうなずいた。
「そうね」
「それ、あなたの本当の名?」
 キャラコさんは、うちあけた話をする。
「いいえ、綽名あだななのよ……あたし、いつもキャラコの下着を着ているでしょう。だもんだから……」
「本当の名は、なんというの? 宿帳には、沼間槇子ぬままきことなっていますわね。あれがそうなの?」
「いいえ、あれは従姉いとこの名よ」
「じゃ、あんたの名は?」
 キャラコさんは、まっすぐに茜さんの顔を見つめながら、こたえる。
「それは、いえないことになっていますの」
 ふうん、と鼻を鳴らしてから、
「じゃ、あんたのお父さまは、何をなさる方?」
 キャラコさんが、首をふる。
「それも、いえませんの」
「おや、不便ね。……どういうわけで?」
「それも、申し上げられませんわ」
「ええ、いってくれなくても結構よ。……要するに、あんたは、偽名ぎめいして、あんなところに隠れているのね」
 茜さんは露骨な嘲笑をうかべながら、
「なにか、よくよくうしろ暗ぐらいことがあるのね」
 キャラコさんは、返事をしなかった。うしろ暗いことなんかないといってみたところで、しょせん水かけ論だからである。
 茜さんは、勝ち誇ったような声で、
「そんなことぐらいわからないと思う? あたしはよほど前からちゃんと知っていたのよ。あんた、槇子まきこさんと呼ばれると、ときどき、返事をしはぐるでしょう。……ははあ偽名をつかっているんだな、ってそう思っていたの。……いったいどうしたっていうの?……あんた、ここで、そっとママにでもなるというわけ? それとも、なにか、もっと深いわけがあるの?……いずれにしても、浮世うきよを忍ぶには屈強の場所ね。……でも、そんなことは、あたしの知ったことじゃない。おうかがいしたいのは、ほかのことなの」
 キャラコさんが、落ち着いた声でいう。
「おっしゃってみて、ちょうだい」
 傲慢ごうまんに、上から見おろしながら、
「あんた、兄に対して、どんな感情を持っていらっしゃるの」
「お気の毒だと思っていますわ」
「おや、たったそれだけ?……ほんとうのことをいってくださいね」
「あたし、嘘なんかいったことはありませんわ」
 茜さんは、ふん、と鼻で笑って、
「自慢らしくいうわね。だいたい、嘘のある齢としでもないじゃないか。あんたなんか、まだ子供だわ。……でも、あんたは別なのかも知れない。……ねえ、かくさずにいってちょうだい。あんた、兄に対して何か特別な感情を持っているんじゃない?」
 キャラコさんは、ゆっくりとかんがえてみる。
 どう考えても、特別なんてことはないようだ。佐伯氏にたいする愛の感情は、秋作氏や立上たてがみ氏にたいするそれとちっとも変わりがないように思う。ただ佐伯氏のほうはたいへん不幸なので、どんなことでもして慰めてあげたいという、すこし別な気持が加わるだけのことである。
 キャラコさんは、微笑しながらこたえた。
「特別な感情なんかもっていないようよ」
「じゃ、なぜ、あんなにしつっこく兄をつけ廻すの」
「あなた、考えちがいをしていらっしゃるんだわ。あたし、本を読んであげたり、お話をしてあげたりしているだけなの」
「それ、本当でしょうね」
「本当よ」
「誓うことができて?」
「ええ、誓ってもいいわ」
「そんなら、それでいいから、じゃ、もうこれっきり兄に逢わないようにしていただきますわ」
「あら、なぜでしょう」
 茜さんは、マジマジとキャラコさんの顔をみつめながら、吐きだすように、
「汚けがらわしいからよ、あんたのようなひと」
 そばへ寄ってもらいたくないというふうに、殊更ことさららしいしぐさでとなりの幹に移ると、それに背をもたせながら、
「ご存知ないかもしれませんけれど、あたしの一族は純血ピュウル・サンなのよ。……だから、あんたのような、うしろぐらいところのある下等なひとはそばへ寄せつけないことにしてあるの。膚はだがけがれますから。……どう、おわかりになって? これでもわからなければ、あんた、すこし馬鹿よ」
 キャラコさんは、思わず立ちあがった。が、すぐ自制した。
(……すこし、頭の工合が悪いのかも知れない。どうも常態ノルマルでないようだわ。こんな非常識なひとのいうことにムキになったりしたら、それこそ、こっちがやりきれないことになる。……それにしても、純血ピュウル・サンって、なんのことかしら? 馬うまでもあるまいし、ずいぶん、でたらめなことをいうわね)
 キャラコさんは、馬鹿馬鹿しくなって、口をきく気にもなれなくなった。
 茜さんは、いら立たしそうに眉をひそめながら、
「なんでもいいから、兄から手をひいてちょうだい。いくらつけ廻したって、もうモノにならなくてよ」
 茜さんは美しいので、キャラコさんはたいへん好きだったが、あまり下等な口のききかたをするのでガッカリしてしまった。
「それで、佐伯氏のほうは、どうおっしゃっていらっしゃるの?」
 茜さんは、イライラと足踏みをして、
「兄のことなんか放って置いてちょうだい。もちろん、あんたのことなんか、もう問題にしていなくてよ。……兄はお人好ひとよしなもんで、一向気がつかないの。……だから、あたしからよくいってやりましたわ。……あれは、たいへんなお嬢さんなのよ、って。……兄も不愉快がって、あいつ、どこかへ行ってしまわないかな、っていっていましたわ。……つまりね、あたし、兄の代理でやってきたわけなの」
 キャラコさんは、ちょっと眼を伏せた。
(なるほど! きのうに限って疏水そすいへやって来なかったのは、そういうわけだったんだわ)
 もちろん、よく思われようとしてやったことではないが、それにしても、こんな情けない原因で佐伯氏に逢えなくなるのは、すこし悲しかった。
 しかし、自分でなければ、佐伯氏を慰めることができないというのではないし、それに、いつまでもそばにいてあげられるというわけでもないのだから、どっちみち同じことのようである。立上たてがみ氏の力で、佐伯氏の視力がすこしでも回復すれば、それで自分の好意はとどくわけだ。
 茜さんは、鋭い舌打ちをひとつして、
「ねえ、お返事はどうなの」
 キャラコさんが、はっきりと、こたえた。
「もう、お目にかかりませんわ」
「逢わないっていうだけでは困るのよ。すぐあの宿から出て行っていただけるかしら?」
 キャラコさんは、素直にうなずいた。
「ええ、そうしますわ。今日じゅうならよろしいの?」
「できるだけ早くね」
 茜さんは、背伸びをするようにグッと胸をそらすと、
「……それから、あしたおいでになるというドクトルの件ね、あれ、お断わりしてよ」
 キャラコさんは、眼を見はって、
「あら、どうしてでしょう。そのかたなら、かならずお兄さまのお眼を癒なおして差しあげることができるんです。どうか、そんなことをおっしゃらないで……」
 茜さんは、切りつけるような調子で、
「結構よ。放って置いてちょうだい。……あたし、兄を盲目めくらのままにして置きたいんです」
 キャラコさんは、自分の頬ほほにクワッと血がのぼってくるのがわかった。
「茜さん、あなた……」
 茜さんは、空うそぶいて、せせら笑うように、いった。
「盲目の兄! なんて、ずいぶん、浪漫的ロマンチックじゃないこと?」
 とりつくしまもなかった。
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財産相続人(4)

 キャラコさんは、たったひとつ佐伯氏にたずねたいことがある。佐伯氏の眼が本当に絶望なのかどうかということである。今までいく十度ど、口さきまで出かかったか知れないが、そんなことにふれてはいけないのだと思って、しんぼうしていたのだった。しかし、今日はどうしても切り出してみようと決心した。
 秋作氏の親友で、キャラコさんを本当の妹のようにかあいがってくれる立上たてがみ氏という若い博士が、ついこのころ、ミュンヘンから帰って来た。
 秋作氏は、立上のやつ、独逸ドイツから近代眼科学の精髄せいずいをかっぱらって来やがったそうだ。と、恐悦きょうえつしながらキャラコさんに話してきかせた。もし、佐伯氏にその気があるなら、いちどぜひ立上氏に診みさせたいと思うのである。
 キャラコさんが、蘆あしをわけて疏水そすいのほうへおりてゆくと、いつものところに佐伯氏が待っていて、きょうは、たいへんおそかったと、いった。キャラコさんといっしょにいることだけが、このごろの楽しみになっているふうだった。
 見ると、佐伯氏の膝ひざの上に英語の本が一冊のっている。キャラコさんが、おどろいて、たずねた。
「あなた、本がお読みになれるの」
 佐伯氏は、悲しそうな微笑をしながら、
「私は、まず骨を折って点字で読みます。それから、その活字の本をこうして撫なで廻しながら、この中に、あんなすぐれた事が書いてあるのかと感慨にふけるのです。……こうして頁ページの上をさすっていると、いろいろな文章がつぎつぎ記憶の中によみがえって来て、ちょうど眼で読んでいるような気持になれるのです。……未練みれんだと思うかも知れないけれど」
 このごろは、心ないことばかり口走って佐伯氏を悲しませる。これも、自分の感情が足りないせいだと思って、キャラコさんは、そっと唇をかんだ。それにしても、眼のことに触れられるのを、こんなにもいやがっているひとに、あなたの眼はもうだめなのか、などとたずねるのは、いかにも心ない仕業しわざだと思ったが、死んだ気になって、切り出してみた。
「佐伯さん、あたくし、たったひとつ、おたずねしたいことがありますの」
 佐伯氏は、ビクッとしたように、キャラコさんのほうへ顔をふり向けて、
「あらたまって、どうしたんです。……ききたいって、どんなこと?」
「あなたのお気にさわることなんですから、はじめに、おわびしておきますわ。……あたしがおたずねしたいのは、あなたの眼はどうしても絶望なのかどうかということなの。……まだ、いくぶんでも希望があるのでしょうか」
 キャラコさんが、そうたずねると、佐伯氏は、急にキュッと頬ほほの肉を痙攣ひきつらせ、なんともいえない暗い顔をしておし黙ってしまった。
 キャラコさんは、どうしていいかわからなくなってしまった。うなだれて、唇だけを動かして、ごめんなさい、とつぶやいた。
 佐伯氏は、ふいに、渋い微笑をうかべて、
「いま、ごめんなさい、といいましたね。よく聞えましたよ。……あやまることなんかいりません、なんでもないことです。……私が眼のことに触れたがらないのは、じつは、どうしてもあきらめきれないことがあるからなんです。…私のは、単性視神経萎縮アトロフィア・ネルヴィ・オプチジという厄介やっかいな眼病で、手榴弾しゅりゅうだんの破片で頭蓋底を骨折したために、起こったもので、日本では治癒ちゆできませんが、ミュンヘン大学のヘルムショルツ博士のところへ行けば必ず癒なおしてもらえるあてがあるのです。……しかし、私にはそんな金もないし……」
 ここまでいいかけると、とつぜんいらいらした口調で、
「もう、よしましょう。この話は」
 と、クルリとキャラコさんに背中を向けてしまった。
 キャラコさんは、宿へ帰ると、秋作氏の気付きづけにして、ヘルムショルツ先生の高弟に宛てて長い長い手紙を書いた。
 ……そういうわけですから、この手紙を見次第、鞄かばんを持って飛んで来て、ちょうだい。これは、あたしの、めいれいよ。と結んだ。日記には、こんなふうに書きつけた。

キャラコの信念
佐伯氏の眼は、必ず見えるようになる!


 一日おいて次の日、立上氏から、ミヨウゴニチアサユクという電報が来た。
 キャラコさんは、その電報を持っていつものところへ駆けて行った。
 木笛フリュートは蘆の中に置いてあるが、佐伯氏の姿は見えない。四時ごろまで待っていたがやって来ない。もしや水ぎわにでもいるのかとそのほうを見廻したが、渚なぎさには人の影らしいものもなかった。
 キャラコさんは手帳の紙に、

 佐伯さま。明後日あさってのあさ、ここへ、ヘルムショルツ先生の高弟が来ます。どうぞ、あなたの眼をふたつ貸してちょうだい。

 と、走り書きをし、それを電報用紙の中へ細長くたたみ込み、その表に、(茜あかねさま、これを読んでさしあげてくださいませ)と、書いて、それを木笛フリュートに結びつけた。

 それから、三十分ほどすると、疏水そすいの向う側から佐伯氏がやって来た。
 木笛フリュートのあるあたりに顔を向けて、ぼんやりと立っていたが、ツと手を伸ばして手紙をほどきとるとむこうを向いて、立ったままでそれを読み出した。
 しばらくののち、手紙を持った手がだらりと下へ垂れる。それから、左手をいそいで眼のほうへ持って行った。
 佐伯氏は、こちらへ背中を向けたままいつまでも立っている。佐伯氏の手の中で、キャラコさんの手紙がヒラヒラと風にひるがえっていた。
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財産相続人(3)

 次の日の夕方、いつものように疏水そすいのほうへ散歩に行くと、佐伯氏がそこの枯蘆かれあしの間にあおのけに寝ころんでいた。
 またうるさがらせてはいけないと思って、猫のように足音を忍ばせながら、そっといま来たほうへ帰りかけると、とつぜん、佐伯氏が声をかけた。
「ああ、きのうのお嬢さんですね」
 キャラコさんは、ギョッとして立ちどまった。
「ええそうよ……。あたし、あちらへまいりますわ。お邪魔してはいけませんから……」
 佐伯氏は、あわてたように身体を起こすと、
「邪魔だなんて、……よかったら、……すこし、話して行ってください」
 そういって、狭い蘆あしの間で、すこし身体をすさらした。
 とげとげしたところはなく、今日はたいへん静かな口調だった。
「でも、あなたひとりでいらっしゃるほうがお好きなんでしょう。気がつかないでこんなほうへやって来てしまって……。あたし、やはり、あちらへまいりますわ」
 佐伯氏は、唇のはしに神経質な微笑をうかべながら、
「そんなに気をつかってくださらなくとも結構ですよ。……でも、あたしのようなものとお話になるのがおいやなのなら……」
 キャラコさんが、あわてだす。
「あら、そんなことありませんわ。いやだなんて……。あたしは、ただ、お邪魔してはいけないと思っただけなの。……お差しつかえなかったらここへ坐ってよ」
 へどもどしながらそばへ並んで坐ると、佐伯氏は頬骨ほおぼねの上のところをすこしあからめながら、
「きのうはずいぶん失礼なことを申しました。どうか、ゆるしてください。疲れてイライラしていたせいなんです。……おわかりになりますまいが、こんな不自由な身体で長い旅行をすると、思うようにゆかないことが多くて、ついいら立ってしまうのです」
「どんなにかご不自由なことでしょうね、お察ししますわ」
「有難う。……感のわるいところへ持ってきて、すこしわがままなもんだから、なんでもないことにすぐ腹を立ててしまうのです。結局、自分の損なんだけど……」
「まだお馴れならないせいもあるでしょうし……」
「そうですよ、なにしろ、俄かめくらでね」
「そんな意味でいったのではありませんわ」
「気になさらないでください。どうしてでしょうかね、つい、こんな口調になってしまうのです。……眼が見えなくなったという事実にたいしては、すこしも遺憾はないのですが、日常の直接なことにあまり不便が多すぎるので、じぶんで始末がつかなくなってしまうのです」
 キャラコさんは、だまって佐伯氏の顔をながめていた。それにしても、あの茜あかねさんというひとがなぜもっと佐伯氏をいたわってあげないのだろうと考えていた。散歩についてくることもなければ、廊下などで手をひいてやるところも見たことがない。いつも、ひとりで放っておく。いったいどうしたというのだろう。盲目めくらの兄と一緒にいるところをひとに見られるのを嫌いやがっているようにもみえる。もし、そうなら、すこしひどすぎるようだ。それも、戦争で失明されたのだというのに。
 キャラコさんは、すこし腹が立ってきた。……しかし、なにか事情のあることか知れないし、自分が差し出るような性質のことではないので、そのことには触れなかった。
 佐伯氏は、しばらく黙り込んでいたが、ふいにキャラコさんのほうへ顔を向けると、
「それにしても、あなたは、いったい、どういう方なのですか、お嬢さん?……声のようすだとたぶん、十九ぐらい……」
 キャラコさんが、笑いだす。
「当りましたわ。……あたし、十九よ」
「ずっと、ここにおいでなのですか」
「ちょうど、半月になりますわ」
「失礼ですが、どなたと?」
「あたし、ひとり」
 佐伯氏は、驚いたように、ほう、といって、
「どこかお悪いの?」
 キャラコさんが、すこし、あかい顔をする。
「いいえ、ただ、こんなふうにしていますの。……妙でしょう。あたしも、妙でしょうがないのよ。あたしのような若い娘が、たったひとりでこんなところにブラブラしているなんて、あまりほめた話でありませんけど、すこしわけがあって、もうすこしの間こんなことをしていなくてはならないの。でも、そのわけは申しあげられませんわ」
 佐伯氏が、つぶやくような声でいった。
「だれにだって、事情はあるもんだから……」
「でもね、あたし、悪い人間でないことだけはたしかよ」
 キャラコさんがそういうと、佐伯氏は、低い声で笑いだした。
「誰がそんなふうに思うもんですか。それどころか、あなたのような親切なお嬢さんに逢ったのははじめてです」
「おや、どうしてでしょう」
「いえ、ちゃんと知ってますよ。……私があんなひどいことをいったのに、それにもかかわらず、あなたは心配して、とうとう宿の入口まで送ってくださいましたね。……ほんとうに、有難かった。……言葉では、ちょっといい現わしきれないほどです」
 キャラコさんが、やさしく抗議した。
「あんなのが親切というのでしょうか。あなたをうるさがらせただけですわ。あたし、差し出がましいまねをしたばかりに、あんなにあなたをいら立たせてしまって申し訳ないと思っていましたの。あたし、出しゃばりで、ほんとうにいけないのよ」
「親切だといっていけなければ、たいへんに心の深いお嬢さんだと申しあげましょう。……あなたは私の歩く道の石ころをみなとり除のけてくださいましたね。ちゃんと知ってます」
 キャラコさんは、閉口して黙り込んでしまった。
「……それから、二股ふたまた道のかどの木の枝に、石を入れた空鑵あきかんをつるして、風が吹くとカラカラ鳴るようにして置いてくだすった」
「…………」
「私は、その音をたよりに、迷わずに湖水のほうへ出てゆけるのです。帰るときも、またその通り、わき道へはいり込まずにすみます」
 佐伯氏は、深い感動のこもった声で、
「……昨日まであんなものはありませんでした。……お嬢さん、あなたがしてくだすったのですね」
 佐伯氏の口調が、あまり切実なので、キャラコさんは度を失って、思わずうつ向いてしまった。
「あなたが、してくだすったのですね?」
「…………」
「返事をしてくださらなくとも結構です。……あなたのような優しい方でなくて、誰れがあんなことをしてくれるでしょう。有難う、お嬢さん……」
 佐伯氏は、とつぜん、眼ざましいほどに昂奮して、
「ありがとう、ありがとう。……このありふれた言葉を、私が、いま、どんな深い感情で叫んでいるか、とてもあなたにはおわかりにならないでしょう。……しかし、いつか、それがおわかりになる時が来たら、あなたが、なんの気なしにしてくだすった親切が、ひとりの男の人生に、どんなたいへんな影響をあたえたか、きっと了解なさるでしょう。……これだけ言ったのでは、なんのことだかおわかりになりますまいけど、あなたの親切のおかげで、いままで知らなかった新しい高い世界が、とつぜん私の前にひらかれたような気がしているのです。……ほんとうに、思いもかけなかった新しい世界が……」
 そういうと、唇をふるわせながら、急に言葉をきってしまった。
 佐伯氏は、戦場でいろいろ痛烈な経験をしたので、それで、なんでもないことに感じやすくなっているのに違いない。キャラコさんは、佐伯氏の感情を乱してはいけないと考えて、できるだけしずかにしていた。
 しばらくすると、佐伯氏は蘆あしの中から木笛フリュートを取りあげて、ゆるやかに吹きはじめた。古い舞踏曲のようなもので、なんともいえない憂鬱な旋律だった。佐伯氏は、つまずいてはいくどもやり直しながら、終しまいまで吹きおえると、蘆の中へそっと木笛フリュートを置いた。
 キャラコさんが、たずねた。
「なんだか悲しそうな曲ですね。それは、なんという名の曲?」
 佐伯氏は、人がちがったような落ち着いたようすで、キャラコさんのほうへ向きかえりながら、
「これは、フランスの十七世紀ごろの古い舞踏曲で、『罪のあがない』という標題がついているんです。……舞踏曲にしては妙な名ですね。どんな意味なのか私にもわからない。でも、なんとなく好きで、こればかり吹いているんです。……それはそうと、私は、さっきから、あなたがどんな顔をしていられるのかと思って、いろいろに想像していたんです。……たぶん、やさしい美しい顔をしていらっしゃるのでしょうね」
 キャラコさんが、例の、大きすぎる口をあいて、笑いだす。
「あたし、美しくもなければ、やさしい顔なんかもしていませんわ。……むしろ、みっともないといったほうがいいくらいなの」
 佐伯氏が、釣り込まれて、低い声で笑った。
「すこし、説明してみてください。……その前に、あなたをどうお呼びすればいいのでしょうね、お嬢さん」
「キャラコ、と呼んでちょうだい」
「キャラコ……。珍らしいお名前ですね。……では、こんどは顔のほうを……。あなたは、どんな眼をしていらっしゃるんですか」
「眼は割に大きいほうよ。……でも、魅力があるという工合にはゆきませんわ。ただ、大きいというだけ。……白熊しろくまの眼のようだというひともありますけど、それだって、すこしほめすぎているくらいよ。……でも、視力だけはたしかなの。なんでも、よく見えますわ。……あら、ごめんなさい」
「いいえ、かまいませんとも。……それで、鼻はどんなふうですか」
「鼻はそんなにひどくはありませんわ。段なんかつかないで、割とスラッとしていますの。ちょっと希臘ギリシャ型といったふうなの。でも、そんなに高いほうではありませんわ。あまり美しく想像なさると損をなすってよ」
 佐伯氏は、想像を楽しむように、こころもち首をかしげながら、
「すこしずつあなたの顔が見えるようになりましたよ、……もうすこしいって見てください。口はどんなふう?」
「困ったわね。……口は、とても駄作ださくなのよ。すこし大きすぎるってみながそういいますわ、それは、たしかなの。口を開いて笑うと、奥歯がいつも風邪をひきますの、たいへんな口でしょう。口の話は、これくらいにしておいてちょうだい。……お次はなんですか?」
「歯はどうです」
「歯並びはいいほうよ」
「髪は?」
「棒みたい」
「棒って、なんのことです」
「つまり、パーマネントをかけないもんですから、髪が棒みたいにブラブラさがっていますの。でも、別に気にもしていませんわ。……どう? あたしの顔、だいたいおわかりになって?」
 佐伯氏が、楽しそうにうなずいた。
「もう、はっきり眼に見えますよ。あなたがどんなやさしい顔をしていらっしゃるか!」
 夕風が吹き出して、湖の面おもてが赤紫色モーヴに染った。

 こんなことがあってから、疏水そすいへ行くと、佐伯氏がいつもそこでキャラコさんを待っているようになった。二人は湖の岸を遠くまで歩き廻り、くたびれると肱ひじをつき合わして草の上に坐った。キャラコさんは歌をうたったり、本を読んでやったりした。佐伯氏は戦場でたいへん勇敢な働きをしたひとだということだったが、自分では、いっさい戦争の話にふれなかった。キャラコさんには、それが奥ゆかしく思われた。あまり実感がはげしくて、かるがるしく口に出す気になれないのだろうと思って、戦争のことはなるたけたずねないようにした。
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財産相続人(2)

佐伯氏は南京ナンキンの戦争で失明した名誉ある傷痍しょうい軍人である。
傷痍軍人といっても、衛戍えいじゅ病院にいるのではないから、あの白い病衣を着ているわけではない。背に帯のついたスマートな大外套ガーズ・コートを着て、アッシュのステッキをついて歩いている。

顎あごはいつもきれいに剃ってあるし、髪にはキチンと櫛目くしめがはいっている。散歩に出ると、野の花を襟さしたりして帰ってくる。どこにも軍人らしいいかついところがないので、キャラコさんは、この優雅エレガントな盲目の青年が名誉ある傷痍兵士だとは、まるっきり気がつかなかった。

そういえば、なるほど顔色は陽にやけて黒く、歩きぶりにもどこか軍隊式なところが残っている。肩も腰も頑丈で、この肉体がどんな刻苦こっくに耐えて来たか充分に察しられるが、全体の感じはどことなく弱々しく、挙動もたいへんに神経質だった。

黒い大きな眼鏡で顔が半分以上隠されているが、鼻も口もきりっとしまっていて、学者とでもいったような、奥深い、理智的な印象を与えるのに、声は低く細く、いつもふるえるような調子をおびていた。極めて理性的なものと、極めて感情的なものと、まるっきり矛盾した二つの性格がひとつの肉体の中におさまっているような感じだった。

佐伯氏の兄妹は五日ほど前の夕方ここへやってきた。宿のひとのはなしでは、佐伯氏はここへ点字の勉強に来たのだそうだった。まだ春が浅く、それにこんな淋しいところなので湯治とうじの客もすくなく、静かに勉強するにはうってつけの場所だった。

佐伯氏は、茜あかねさんという、すごいような端麗たんれいな顔をした妹さんと二人で別棟べつむねの離屋はなれを借り切って、二階と階下したに別れて住んでいる。

どちらも静かなひとたちで、ときどき、佐伯氏に本を読んできかせるらしい茜さんの澄んだきれいな声がきこえるほか、一日じゅう、ひっそりとくらしていて、部屋の障子しょうじがひらかれることさえごくまれだった。

佐伯さんは、まいにち三時ごろになると散歩に出て、湖のそばでフリュートを吹く。まだ習いはじめだとみえ、とぎれとぎれで、なんとなく悲しげだった。茜さんのほうは、めったに部屋からも出て来ない。たまに廊下などですれ違うと、軽かるく目礼して、眼を伏せて急ぎ足で行ってしまう。不幸の重荷を背負っているような薄倖はっこうな感じのひとだった。

キャラコさんは、はじめての日、湖畔から宿のほうへ曲り込むわかれみちのところで佐伯氏に逢った。

佐伯氏は、道からそれた蘆あしの繁みの中へ踏み込んで、途方に暮れたようすで立っていた。

キャラコさんは、すぐ、眼の悪いひとなのだと気がついて、佐伯氏をていねいに道まで連れ戻し、そのままそろそろと宿のほうへ手をひいて行こうとすると、佐伯氏は、とつぜん、邪険な仕方でキャラコさんの手をふり切って、毒々しい口調で叫んだ。
「いいから、独りで歩かしてください。これから毎日散歩に来なくてはならないのだから、道に馴れておこうと思ってやって来たところなんです。おせっかいはごめんだ」
 黒い眼鏡だけのような顔を、キャラコさんのほうへふり向けると、
「……もっとも、一生私の手をひいて下さるというなら別ですがね。たった一度くらい世話してもらったってなんにもなりゃしない」

そして、空うそぶくようにして、は、は、は、と笑った。

すこし、ひどいいい方だったが、キャラコさんは気にもかけずに、「でも、ここはひどい石ころ道で、とても危ないのよ。……それに、陽もくれて来ましたし……」

佐伯氏は、ふん、と鼻を鳴らして、「陽も暮れて来たし……か。私にとってはどっちみち同じこってすよ、お嬢さん。はじめっからまっ暗なんだから。……まあ、放っておいてください。私はめくらだが、あまりめくら扱いにされるのは好きじゃないんです」

キャラコさんは、すこし悲しくなってきた。しかし、自分があまりうるさくしたのがいけなかったのだと思いかえして、いわれた通りに佐伯氏の腕から手をのけた。

佐伯氏はステッキで道をさぐりながら、危なっかしい足つきで歩いてゆく。道がわからなくなると、癇癪かんしゃくを起こしたようにどこでもかまわず踏み込んで行った。

キャラコさんは心配でたまらないので、すこしあとからついて行くと、佐伯氏はキャラコさんのほうをふりかえって、
「君はどこか別な道から帰れないの。うるさいから、ついてこないでくれたまえ」
 と、イライラした声で、投げつけるように叫んだ。
 キャラコさんは、
「ええ」

と、素直にそう返事をして、しばらく立ちどまってから、ずっと離れて見え隠れに宿の入口まで送って行った。

宿へかえると、キャラコさんは、机に向って日記を書きはじめた。

 キャラコの失敗
 私は不幸なひとを見ると、すぐ感動してしまう。
きょう、私は夢中になりすぎて、不幸なひとをいら立たせた。
他人の不幸に感情だけで同感するということ。――ことに、衝動的な親切などは何の意味もなさない。私は、私の薄っぺらな同情を佐伯氏に見ぬかれてしまった。
それは、……

ここで、急にペンが動かなくなった。
キャラコさんは、にがにがしい顔をして長い間ペン軸を噛かんでいたが、とうとう、思い切ったように、そのあとに、こんな風に書き足した。

つまり、私が、おっちょこちょいだから……。なってないわね。……よく覚えておきなさい。他人ひとに同情するなどというのは、けっして容易たやすいわざでないということを。いい加減な同情などは、これからつつしまなくては。

キャラコさんは、寝床へはいってから、いつまでも大きな眼をあいて天井をながめていた。
気持が沈んで、ひどくメランコリックになっている。なんだかもの足りない。あの不幸なひとにやさしくしてあげることができないというのは、なんというさびしいことだろう。
アッシュのステッキをついて、そろそろと足さぐりして歩いている佐伯氏のわびしそうな姿が眼にうかぶ。
佐伯氏は、石ころだらけのゆるい坂道を虫のはうように歩いて行く。杖のさきで長い間道の上をたたく。いよいよ大丈夫だと見極めがつくと、おずおずと右足を伸ばす。また杖で道をさぐる。それから、ようやく左足が出てゆく。
なんて、はかばかしくないんだろうと思って、キャラコさんのほうで、ジリジリしてくる。がっかりしたような声をだす。
「とても、見てはいられないわ」
 佐伯氏は、まだのそのそやっている。あまりひどい骨折りなので、すぐ疲れてしまうらしい。四、五歩あるいては立ちどまって汗をふく。それからまた元気を出してやりだす。
 ところで、休んでいるうちに方角がわからなくなったとみえて、道を斜はすに、大きな松の木の根が出ている窪くぼみのほうへどんどん歩いてゆく。危ない危ないと思っているうちに、案の定、穴ぼこの中へ右足を踏みこんでえらい勢いでひっくりかえる……。
 キャラコさんの胸が劇はげしくおどる。思わず大きな声をだす。
「あら、危ない! ……ほうら、とうとう落っこっちゃった」
 自分の声ではッと気がついて赤い顔をする。てれくさくなって、枕の上で頭をまわす。
 キャラコさんの耳に、毒々しい佐伯氏の声がきこえる。
(うるさいから、放っておいてくれたまえ! めくら扱いにされるのはごめんだよ)
 たしかに、ひどすぎるいい方だ。辛辣しんらつすぎる。ひねくれている。あまり礼儀しらずだ。
 キャラコさんは、こんな事をかんがえながら、一方では、穴ぼこのなかからやさしく佐伯氏を助け起こしている。
 どんなに腹を立てようと思っても、どうしても思うようにならない。
 キャラコさんは、幻想を払いのけるために、えへん、と大きな咳払いをする。
「こんなことじゃしようがないわ」
 自分があまり感傷的センチメンタルなのが不愉快になってきた。
「むやみにひとに同情しやすくて困るわね。だから、みなあたしのことを馬鹿だと思っている。もう、十九にもなったんだから、そろそろこんな性質にうち勝たなくては!」
 キャラコさんは、額に皺しわをよせむずかしい顔をしながら、決心する。
「ともかく、もっと強い意志を持つことだわ! あんな意地の悪いひとなど放っておけばいい」
 これで、ようやく安心する。枕を置き直して眼をつぶる。
 間もなく眠くなってきた。
 キャラコさんは、うつらうつらした半睡はんすいの中で、あす早く起きて、佐伯氏が散歩する道の石ころをみな取りのけておこうとかんがえていた……。
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財産相続人(1)

キャラコさん 蘆と木笛 久生十蘭

風がまだ冷たいが、もう、すっかり春の気候で、湖水は青い空をうつして、ゆったりとくつろいでいる。

キャラコさんは、むずかしい顔をして、遊覧船の桟橋さんばしで、釣りをするのを眺めている。すこしばかり機嫌が悪いのである。

キャラコさんは、半月ほど前から、蘆あしの湖の近くの小さな温泉宿で、何ともつかぬとりとめのない日を送っている。本を読むか、日記をつけるか、散歩をするか、この三つのほかにすることがない。佐伯氏と話すことのほかは、なにもかもすっかり飽き飽きしてしまった。

キャラコさんは、早く家へ帰って家事の手伝いをしたり、ピアノのおさらいをしたり、今までどおりキチンとした生活をしたいのだが、千万長者の相続人になったばかりに、窮屈な思いをしてこんなところに隠れていなくてはならない。本当の名を名乗ることさえできないのである。

こんな淋しい山奥に年ごろの娘がたったひとりでのっそりしているのは、ずいぶん奇妙に見えるにちがいない。キャラコさんは女々めめしいことはきらいだから、宿のひとたちにもいいわけがましいことはひと言もいわないが、かなり肩身の狭い思いをして暮らしている。

キャラコさんに、父の長六閣下から、手紙で、当分のあいだ、家へ帰ることはまかりならぬと申し渡された。

……当分本名を名乗ることはならぬ。名前をいう必要がある時はキャラコとだけいいなさい。それから、当分の間、いっさい新聞雑誌を読んではならぬ。友人のところへ手紙を出してはならぬ。右、命令す。父

ならぬ、ならぬ、ならぬ、――長六閣下の濶達かったつな文字は、ひとつひとつ八字髯じひげをはやし、キッと口を結んでキャラコさんをにらみつけていた。

青天のへきれきである。どういう理由でこんな眼に逢わなければならないのか、いくら考えても思いあたることはなかった。
二三日たってから、キャラコさんが当惑しているだろうと察して、秋作氏がくわしい便りをよこしてくれた。

キャラコさんは何も知らなかったが、そのころ、東京ではたいへんな騒ぎがもちあがっていたのである。キャラコさんの居どころをつきとめようとして、東京中の新聞社の自動車が社旗をヒラヒラさせながら狂気のように走り廻っていた。

ひところは、世界の謎なぞとまでいわれた失踪の千万長者、山本譲治ジョージ・ヤマモトがとつぜん日本に現われ、今年十九歳になる一少女を千二百万弗ドル(四千万円)の財産相続人に選んだ。……世界的なビッグ・ニュースである。
どんなことがあっても『キャラコさん』をつかまえて、ひと言でもいいからしゃべらせろ。捕まえたらかまわないから、脛すねでもたたき折って動けないようにしてしまえ。……畜生、それにしても、写真ぐらいありそうなもんだ。

まるで、殺人犯人でも追いつめるようないきおいで狂奔したが、キャラコさんはおろか、写真さえ手に入らない。長六閣下の機敏な統制と緘黙かんもくにかかっては、さすがの新聞記者たちも手も足も出なかった。

キャラコさんは、ここへ来る途中、小田原の駅でこの獰猛どうもうな追撃隊の一行に出っくわしている。キャラコさんが改札口を出ようとすると、三枚橋のほうから新聞記者と写真班を乗せた自動車が五六台走り込んで来て、ワイワイいいながら改札口へ殺到して来た。

キャラコさんは、何が起きたのだろうと思って、ちょっと足をとめて眺めてから、そのそばを通って電車の停留所のほうへ歩いて行った。

襟えりのつまった紺サアジの服を着た、みすぼらしいほどのこの娘が、じぶんたちがいま血眼ちまなこになって探している千万長者の相続人だとは、気のつくものはひとりもなかった。

……お前は競馬馬ではないのだから、下劣な関心の対象にするわけにはゆかない、という長六閣下の意見には、俺も賛成である。そんなわけだから、当分お前はお前でないことにして置きなさい。
長六閣下は、あの四千万円を、日本のためになるようにお前に使わせたいといっている。最も意義あるようにあの金を使うために、すこし世間を見て置くのもいいだろう。旅行をするなり、働くなり、この機会を利用してできるだけいろいろ経験をつみなさい。閣下も希望している。
つまらぬ財産をもらったばかりに、こんなよけいな苦労をしなくてはならぬことは、さてさてお前もふびんなやつだ。 秋作

キャラコさんのほうは、財産を相続したことなどは、すっかり忘れていたといっても決して嘘にはならない。人形でももらうほどに気軽にもらってしまったが、それもなにか他人ひとのことのようで、自分が使うのだなどとは、今日まで、ただの一度も考えたことはなかった。
ところで、この手紙を読むと、四千万円という金が、とつぜん、ひどい重みで自分の肩にのしかかってくるような気がする。

あたしがあの四千万円を使う? 考えただけでも気が重くなる。なにしろ、キャラコさんは、いままで自分の手から二円以上の金を使ったことがないのに、それが、四千万円ということになると途方に暮れるほかはない。
キャラコさんは、思わずためいきをついた。
「たいへんだわ、死ぬまで、金をつかうことに、あくせくしなければならないとすると……」

金をもつことは、不幸のはじまりだということの意味がわかるような気がする。じじつ、あんな遺産などをもらわなければ、こんなところで肩身を狭くしていることもいらないし、世間へ金の使いみちを探しに出かけることもいらない。そう思うと、キャラコさんは、なんだか山本氏がうらめしくなってきた。

キャラコさんは、いつまでたってもうごかない浮木うきをながめながら、ぼんやりと考えしずんでいたが、ちいさなためいきをつくと、蘆あしを一本折り取って、それを鞭のように振りながら、湖尻こじりの疏水そすいのほうへ歩き出した。……今日こそ佐伯氏に例の話を切りだしてみようと思いながら。
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2013年12月10日

相続放棄が出来る期間は3ヶ月です

家庭裁判所への相続放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にしなければなりません。この3ヶ月間の期間を「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。相続放棄(または、限定承認)をすることなく熟慮期間を経過すると、相続を単純承認したものとみなされます。

そして、この3ヶ月の熟慮期間が開始する時(起算点)は、自己のために相続の開始があったことを知った時ですが、これは「相続開始の原因となるべき事実を知り、かつ、それによって自分が相続人となったことを知った時」との意味です。

「相続開始の原因となるべき事実」とは、被相続人が死亡した事実ですから、被相続人が亡くなったことを知らなかった場合は、知ったときが熟慮期間の起算点となります。よって、被相続人が亡くなったことを知ったときから3ヶ月以内であれば、亡くなってから3ヶ月以上が経っていても相続放棄できることになります。

また、「自分が相続人となったことを知った時」とは、先順位の相続人がいるので自分は相続人でないと考えていたところ、その先順位者が相続放棄をしたことにより自分が相続人となったようなケースが考えられます。この場合、先順位の相続人が相続放棄をしたとの事実を知らされていなかったときは、それを知ってから3ヶ月以内であれば相続放棄の申述が可能だということです。

ただし、「被相続人が死亡した事実」や「自分が相続人となった事実」を知らなかったとして、3ヶ月経過後の相続放棄申述をする際には、なぜ知らなかったのかについての事情を、家庭裁判所に分かりやすく説明する必要があります。したがって、「3ヶ月が経過している」と判断される恐れがある場合の相続放棄は、必ず専門家に相談してから手続きされることをお勧めします。

なお、相続放棄の手続きを依頼できる専門家は、司法書士と弁護士のみです。相続放棄の手続きについてくわしくは、相続放棄の相談室をご覧ください。

posted by souzoku at 17:16| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年10月25日

司法書士と弁護士

司法書士に抵当権抹消登記を頼んだとして、出来上がった申請書類を見ると、こんな簡単なもので1万円も取るのはおかしいと思う方もいるかもしれません。しかし、司法書士や弁護士などの職業はその持っている知識を売るのが仕事です。

例えば法律相談でも、答えを聞いてしまえば、やっぱりそうかと思うかもしれません。でも、それが法律的に正しいのかどうかわからないから、司法書士や弁護士に相談したわけです。それを、別にそんなこと初めから知っていたと言っても何の意味もないのは当然です。

それと同じで、司法書士が作る書類も不動産登記法やその他の法律、また不動産登記に関する先例や実務の取り扱いを踏まえた上で、登記申請書や、その他の添付書類を作成しているわけです。

不動産登記は、不動産登記法、民法などの法律知識が要求されるのは当然として、それ以外の先例や判例、さらには法務局での登記実務の積み重ねによって成り立っています。

これは、法務局での登記実務に司法書士が協力することで長年をかけてできあがってきているものです。不動産登記の専門家は司法書士ですが、法律上は弁護士も業務として不動産登記を行うことができます。

しかし、法律上行って良いのと、実際に出来るのとは別の話です。事実、多くの弁護士はその業務を行う上で、不動産の登記をする必要があるときには、手続きを司法書士に依頼していると思われます。

今後は、従来の弁護士の業務だけでは経営を維持できなくなった弁護士が、不動産登記業務を行おうとする流れも出てくるかもしれません。実際、債務整理や過払い金請求業務で多数の司法書士を雇用していた法律事務所では、不動産登記業務を取り扱い始めているところもあります。

ただそのようにして、経験のある司法書士を中心にして行うなら別として、債務整理だけしてきた司法書士や、登記業務の経験のない弁護士が、事務所経営の柱として不動産登記業務を行うというのはあまり現実的でないように感じます。

実務に必要な知識と経験を身に付けるのも大変なことですし、そもそも不動産登記は司法書士と言う信頼が出来上がっていますから、それをあえて弁護士に頼むという流れはなかなか出来づらいように思うからです。

弁護士も数が増えたことによって、だいぶ敷居が低くなっている法律事務所も多いです。しかし、一般的に言って弁護士の事務所の方が、司法書士の事務所よりもはるかに敷居が高いのが通常でしょう。

司法書士は法務局の近くに事務所を構えて、飛び込んでくるお客さんを相手に仕事をするのが通常でした。法務局の周りに軒を連ねて小さな司法書士事務所がたくさんあるのが、よくある光景です。

これに対して、ほんの10年くらい前までは、弁護士の事務所は紹介がなければ相談すらできないのがほとんどでした。現在では、ホームページで無料相談をうたっている弁護士も多くなっていますが、全体からすればそのような弁護士はまだまだ1部のはずです。

特に年配の弁護士の中には、弁護士がサービス業であると等は露ほども思っておらず、依頼者を上から見下したり、気に入らないとすぐ叱りつけるような人もいます。

司法書士でもそういう例がないわけではありませんが、そもそもの成り立ちとして一般市民の前に立って、業務を行ってきましたし、そもそも自分たちが特権的な地位にいるとの認識は持っていない人が通常でしょう。
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抵当権抹消登記

司法書士や不動産登記に一般の方が触れる機会としては、住宅ローンを返済し終わった時の抵当権抹消登記があります。住宅ローンの借り入れをするときには、借入れ先の金融機関、または保証会社によってその不動産に抵当権が設定されます。

この抵当権は住宅ローンの返済が滞った時に、その抵当権を実行することによって不動産を競売にかけて、住宅ローンの残債務の支払いに当てようとするものです。抵当権は住宅ローンを完済するまで抹消することはできません。

住宅ローンの支払いが終わると借入れ先の金融機関から抵当権抹消登記のための必要書類が交付されます。住宅ローン借入する際には問答無用で抵当権が設定されますが、抵当権抹消については銀行がやってくれるわけではなく、自分自身で手続きをするか、又は司法書士を探して依頼するしかありません。

そこで、抵当権抹消登記をするためには、司法書士が必要であることを知って、現在であれば司法書士のホームページなどを見てどこに依頼するか探す方が多いと思われます。

なお、司法書士に抵当権抹消登記を依頼する際の手数料は、自宅不動産についての抵当権抹消登記であれば、 1万円からせいぜい2万円ぐらいで済むはずです。

これを節約するために、自分自身で抵当権抹消登記をすることもできますが、インターネットでいろいろ調べたり、法務局の相談コーナーにて相談する手間を考えると普通は司法書士に頼んだ方がいいと考えられます。

どんなに頑張って勉強したとして抵当権抹消登記をするのは住宅ローン開始終わった時です。一生のうちでそう何度も住宅ローン返し終わる事は無いでしょうから、不動産登記について学んだとしてもその後役に立つ事はないでしょう。

例えば、事前調査に1日、そして登記申請をするために法務局へ行って、さらに登記完了後にもう一度法務局に行くとします。そうやって三日間かけることによって、司法書士に払うはずの1万円が節約できたとして、かえって時間の無駄のような気がしますがいかがでしょうか。
posted by souzoku at 18:33| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

不動産登記とは

司法書士と聞いてどんな仕事をしている人なのか正確に認識している人は少ないでしょう。司法書士の仕事のうち割合的に最も多いのは不動産登記業務です。

土地や家、もしくはマンション等を購入したことがある方は司法書士と会ったことがあるはずです。不動産の取引をする際には、必ずその登記を担当する司法書士が手続きに関与しています。

ただし、自分自身で司法書士を選んで依頼した訳では無いでしょうから、あまり司法書士が手続きに関与したとの認識は無い場合が多いと思われます。

ところで、不動産登記とはなんでしょう?簡単に言えば、国が管理している登記簿というものに、自分がその不動産の所有者である事を書き込んでもらうためにする手続きです。当たり前の話ですが土地は持ち運んだり、どこかにしまっておく事はできません。

また、土地に名前を書いておいても、すぐに消えてしまうかもしれませんし、名前を書いた看板を立てておいてもそれで安心できるとも思えません。というより、絶対に取れない方法で土地に名前を書いておいたとしても、それによって自分がその不動産の所有者である事を他人に対して主張することはできません。

そこで、国が厳重に管理している登記簿に不動産の所有者として名前を書き入れてもらうことで、その不動産が自分のものであるとす第三者に対して言えるようにするために不動産の登記を行うのです。

不動産は多くの人にとって一生のうちで最も高価な買い物です。不動産を購入したつもりがちゃんと自分のものにならなかったり、いつの間にか他人のものになってしまっていたら非常に大変なことです。

そのため不動産登記をするためには非常に厳格な手続きが求められています。例えば、不動産を売るときには、現在の不動産所有者の印鑑証明書を提出するとともに、手続きを担当する司法書士が運転免許証などの提示を受けることで本人確認をします。

そして、新たに不動産の所有権を取得した人を登記権利者、不動産の売主である現在の所有者を登記義務者として、 2人が共同して登記申請をします。なお実際には、登記権利者および登記義務者の双方が司法書士に対して、登記の申請代理を委任します。

そして、司法書士が登記権利者及び登記義務者の代理人として、法務局で登記手続きを行うのです。
posted by souzoku at 18:31| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月03日

負債がある場合の相続放棄

父親が亡くなり相続しようとしたら負債がたくさんあったという場合、あなたならどうしますか?

相続は亡くなった方の全ての権利と義務を引き継ぎます。つまり、所有していた土地や家屋・株式などへの権利も取得しますが、同時に負債を返済する義務なども全て承継することになるのです。

もっとも、突然の相続で自分の生活が混乱するのもいけませんから、民法では単純承認、限定承認、相続放棄という制度を設けています。単純承認というのは財産も負債も全てそのまま相続することを言います。何も手続きをしなければ、単純承認とみなされて全てを相続することになります。

限定承認というのは、相続した財産の範囲で債務を返済することで、相続を知った日から3ヶ月以内に、相続人全員で家庭裁判所にて手続きを行う必要があります。

相続放棄は何も相続しなかったことにするもので、これも相続を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きが必要ですが、限定承認と異なり、相続人1人1人が単独で行うことができます。

例えば、亡くなったお父さんには1000万円相当の財産と2000万円の負債があったとしましょう。相続するのは兄弟2人で、相続分は均等に2分の1ずつです。

この場合、何の手続きもとらず単純承認で相続をすれば、兄・弟ともに500万円分の財産と1000万円ずつの負債の返済義務を負います。相続した500万円の財産を換金するなどして負債の一部を返しても、まだお互い500万円ずつの負債が残っています。

この残りの額については、相続人の責任において、兄と弟それぞれが返済していかねばなりません。つまりお父さんの負債を肩代わりして返す、生前のお父さんの借りは子供が返すということになります。

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2人で話し合って限定承認の手続きをしたとします。借りたお金だから返すべきだけれど、財産より負債の額のほうが大きくては、将来的に自分たちの生活に支障がでると考えたわけです。そうすると、財産の1000万円の範囲で負債を返せばよく、残りの負債の1000万円は債権者には可哀想ですが、相続人の資力をもってしてまで払う必要はなくなります。

では、負債の方が多いし面倒くさいから何もいらないよ!という場合はどうでしょう?その場合は、相続放棄という手続きをとります。兄も弟も相続放棄するなら、2人それぞれ手続きをとることができます。2人とも財産を得ることはできませんが、負債を返す義務も亡くなります。

ただし、2人が相続しないことで、次順位の相続人に財産と負債の返済義務が承継されるので、その点は気を付ける必要があります。

では、弟だけが相続放棄したらどうなるでしょうか?すると兄は1000万円の財産と2000万円の負債を相続することになります。残された財産が、思い出のある自宅であるから守りたいとか、父親が借りたお金は責任をもって返したいとか、そういった事情で、こうした選択肢もあり得るかもしれません。
posted by souzoku at 10:23| 相続 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月02日

相続の時の住宅の名義変更について

親族が亡くなった場合、住宅などを相続することもあります。その場合には、名義変更をする必要がありますが、相続する人が何人いるかによって、その手続きの大変さも変わってきます。

住宅の名義変更の手続きは、必要書類と申請書を法務局に提出することにより行います。提出書類には色々とあって、亡くなった人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本類一式、住民票などが必要となります。また相続人全員の戸籍謄本と住民票も必要です。

さらに、複数の場合は遺産分割協議書を用意する必要もあります(相続人が一人であれば必要ありません)。この場合には、印鑑証明が必要です。

自分で住宅の名義変更をする場合は、上記必要書類と証明書発行のための費用以外には、不動産固定資産評価額の0.4%の登録免許税が必要となるだけになります。ただし、相続する人が沢山いる場合、土地家屋が沢山ある場合などは用意する書類も沢山必要となるので、その分大変になっていきますが、自分たちでその手続きができないわけではありません。

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自分たちで住宅を相続した場合の名義変更に関しては、司法書士に依頼するという方法もあります。勿論、自分たちで名義変更をする場合よりはお金が必要となります。ですが、住宅とかの名義変更は必要だけど、その手続きがかなり複雑で、調べてはみたけれどどこから手を付けていけばいいのか分からないようなときは、司法書士にお願いするのをおすすめします。

司法書士は相続人に代わって相続手続きを行うことが出来るからです。ちなみに、名義変更を司法書士に相談する場合、必要書類を前もって準備しておくのをおすすめします。
それをすることによって、相続の手続きが早く進んでいくからです。とはいえ、勿論書類を何も用意しない状態でも大丈夫です。

相続の手続きに関して何も分からない場合、司法書士に聞けば必要書類から、色々な事を教えてくれるからです。大切な親族が亡くなってしまった場合、その悲しみに暮れていることもあるでしょう。ですが、その後には相続が待っています。

スムーズに、何もトラブルを起こさないように済ませるためにも、自分たちで名義変更とかをしたい時はその点について色々と調べておくのをお勧めします。そして、司法書士に依頼する場合、その費用の相場、必要書類、様々な事について事前に調べる事によって、スムーズに、分かりやすい形で相続をすることが出来ます。
posted by souzoku at 19:58| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月27日

遺族に借金がある場合の、相続放棄ともうひとつの方法

法律には、厄介だと感じさせられるものも多いですが、中でも思うのが遺族に借金があった場合、それも相続する必要があることです。もちろん、人が一人亡くなっても、世の中は回っているわけで、責任がそこで途切れては、貸している側もたまったものではありません。

亡くなった人が、しっかりしている人で、例えば家のローンが残っていても、死んでしまった時点でチャラになる保険に加入しているなど、残された人のことを考えているような人ならいいですけど、遊びに使うお金を借りて、何も考えずに死んでしまったというケースは、本当に迷惑ですよね。

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もし、資産を相続できるとしても、借金のほうが明らかに多いとなった場合、どうすればいいのでしょうか。ちゃんと、理不尽と思える法律には、対応策が考えられているので安心してください。具体的には相続放棄という方法です。

これなら、資産を受け取ることが出来ませんが、借金はあなたと無関係ということになります。とはいえ、現在住んでいる家が、遺族の名義人であり、相続しないと出て行く必要があるとなると、かなり大変ですよね。借金から逃れるために、相続放棄をして必要なものまで、すべて手放すというのも大変です。

そこで、もうひとつの方法としては限定承認があります。これなら、プラスの財産の範囲内で債務を引き継ぐことが出来ますので、状況に合わせて検討してみるというのも、いいのではないでしょうか。ちなみに、単純承認というのものあり、これの場合は借金も資産も、すべてを受け継ぐという形になります。

先に書いた方法は、両方とも手続きが必要なのですが、これの場合、手続きの期限である3ヶ月を過ぎると自動的に承認したものとみなされてしまいますので、注意が必要です。
引き継ぎたいものもあるけど、借金は引き継ぎたくないし、どうしようかな・・・。というノリでほおって置くと、後から大変なことになりますので、しっかりと手続きをしておきましょう。

他には相続分の放棄というのもあります。これは、相続人が単純相続した後に、遺産を取得しないことをいいます。これだと、相続人としての地位を失わないので相続分の放棄をしたとしても、借金などの相続債務を免れることが出来ないので、注意が必要です。債務を逃れるためには、相続放棄か限定承認を選んで手続きをしましょう。
posted by souzoku at 12:41| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月24日

土地の相続にかかわる名義変更について

一般的には親から財産を相続することが多いと思いますが、人によっては親以外の親族からの相続ということもあると思います。また、親族でない人からの相続がある人もいるでしょうし、遺産相続というのは非常に複雑で面倒なものという印象があります。

とはいうものの、負債がくっついてさえいなければ、財産の相続はありがたいものですから、粛々と必要な手続きを進めていかなくてはなりません。相続財産の中で最も金額が大きく、またその相続価値が高いものといえば土地だと思います。

住宅ももちろん価値が高く、額も大きくなりますが、住宅は土地の上に建つものだけに、土地のあるなしが住宅には大きな影響を与えます。相続するということは、わかりやすく言えば、かつての持ち主であった人から、譲られる人へと名義変更をするということになります。土地および建物を相続する場合、相続登記という方法によって持ち主の変更を行います。

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このとき、いちばん厄介な問題が、相続する人が一人ではない状況にある場合ということになるかと思います。亡くなられた方が遺す土地は、遺された遺族が当分に分けてもらえる状態にあるとは、ほぼ考えにくいでしょう。

もともと土地というのは分割してわけられるものではない性質のものですし、それをどのようにうまく分配していくかが、相続登記の前に話し合わなくてはならない問題です。この話し合いを遺産分割協議といい、誰がどのように相続するかを決めた文書を作成しなくてはなりません。

これが遺産分割協議書というもので、これがないと土地の名義変更の手続きができなくなります。遺産分割協議書には、遺産相続の権利がある人全員が集まって協議をした、という文言を必ずどこかに入れなければなりません。

また、土地および家などの不動産について記載する場合には、登記事項証明書を書き写す必要もあります。この二つは必ず遺産分割協議書に書く必要がありますから、しっかりと押さえておかなくてはならないポイントです。

他にも相続登記にはさまざまな書類が必要で、それらをすべて抜かりなくそろえないと名義変更がスムーズにいかなくなりますから、くれぐれも注意が必要です。法的な仕組みは非常に複雑なので、専門家である司法書士に相談するか、あるいは法務局などでも相談に乗ってくれるのだそうです。手助けしてくれる人を探し、上手に頼りながら進めていかないと、やったことがない人が自力でやるには手ごわい作業になりそうです。
posted by souzoku at 20:43| 相続 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年01月06日

相続に関する土地の名義変更手続きについて

相続が発生したとき、故人が住宅を所有し一戸建てに住んでいた場合には、その住宅および住宅が建っている土地について相続登記による土地の名義変更手続きが必要になります。

土地や建物といった不動産は、各地域を管轄する法務局に不動産登記がしてありますので、相続が発生した場合は土地の名義変更の手続きをしなければなりません。けれども、費用がかかるからとこの手続きをせずにずっと故人の名義のままで放ってある人もいます。
それでも、市区町村役場から毎年郵送されてくる納税通知書で固定資産税という不動産にかかわる税金をきちんと納めていれば名義が誰であっても差し支えありませんし、その土地に対して売却等何か特別なことをせずに今までのままの状態で居住し続けるのであれば問題になる事はほとんど無いと思います。

ただし、名義変更をせずに長い年月が経ってしまうと、後になって名義変更をしようと思ったときになって苦労をすることがあるのです。相続による名義変更をしないうちに、相続人が死亡してしまうと、手続きに関与する相続人の数が増えてしまうからです。

この場合であっても、相続人全員が法定相続分通りの共有名義で名義変更をすることは可能です。たとえば、相続人が10名になってしまったとしても、その全員の共有名義で登記するのであれば、全員の同意を得ること無く手続きをすることも出来るのです。

しかし、それでは自分の持ち分だけを売却することはできませんから、結局はどうやっても処分することの出来ない不動産になってしまう恐れがあります。先延ばしにしていくうちに、共有者についてもさらに相続が開始してしまえば、協議をおこなう際の当事者も増えていくからです。

したがって、不動産の相続による名義変更は相続が開始してからできるかぎり速やかにおこなうべきなのです。不明な点があれば、専門家である司法書士に相談するのが良いでしょう。
posted by souzoku at 13:15| 相続 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月17日

遺言・相続の相談

遺言・相続についてのホームページです。法律専門家に遺言や相続関連の相談、依頼をするのは相続が開始してから(被相続人が死亡してから)であることが多いかと思います。たとえば、ご家族が亡くなられた後に、不動産の名義を相続人に変更するための相続登記を司法書士に依頼するようなケースです。

相続人の間に争いがなく話し合いがすんなりとまとまるのであれば、それでも問題は生じないと思われます。しかし、不動産の名義を誰のものにするかについてなど、相続人の間での遺産分割協議がうまくいかない恐れがある場合には、事前に対策を取っておく必要があるでしょう。

ここでいう事前とは、相続が開始する前、つまりご自身の生前におこなうという意味です。たとえば、遺言書を作成し誰が不動産を相続しておくかを指定しておけば、相続人全員の同意を得ることなく不動産の名義変更(相続登記)をすることができます。

とくに、再婚していて前妻(前夫)との間にも子供がいるような場合には、遺言書を作成しておくのは必須だといえるでしょう。しかし、現実には遺言書を作成することなく亡くなられてしまい、残された相続人が遺産相続をするために多大な苦労を強いられるケースが大変多いです。

また、再婚しているなどの特別な事情がなく、相続人は配偶者(妻、夫)と子供だけであるようなケースであっても遺産相続を巡るトラブルが生じることも珍しくありません。典型的なケースとしては、主たる相続財産が自宅不動産だけの場合です。

自宅(土地、建物、またはマンションの1室)が主な相続財産である場合、その遺産を分けるのは用意無いことではありません。たとえば、1,000万円の土地と、100万円の銀行預金のみが相続財産だったとして、相続人が2人いたらどうでしょう?

この場合、相続財産の総額は1100万円ですから、法定相続分が2分の1ずつだとすれば、それぞれ550万円ずつの遺産を相続する権利があるわけです。そのため、1人が不動産を相続し、もう1人が銀行預金の全てを相続したとしても、金額には大きな違いがあります。

不動産を2つに分けて(分筆して)相続するのは、相当広い土地でない限り現実的ではありません。土地を相続する人が、もう一方の相続人に差額を金銭で支払うことができれば良いでしょうが、なかなかうまく行かない場合が多いです。そして不動産の相続を巡って、相続人間の争いが生じるわけです。

遺言書を作成しておけば、遺産相続を巡るトラブルの大部分を防ぐことができます。遺言・相続の相談についてのホームページなども参考になるでしょう。
posted by souzoku at 15:19| 相続 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月10日

相続登記のスペシャリスト

相続登記とは、相続が起こったときに、被相続人名義の不動産を相続人に変更するための登記です。被相続人の方の相続財産の中に、不動産が含まれている場合には、必ずこの相続登記をしなければなりません。

うちは資産家ではないので、相続があっても何もする必要がないと考えている方も多いようですが、その思い込みは実は正しいものではないのです。逆に、ほとんどの相続人の方が、被相続人から財産を受ける場合には登記にかかわるということになるのです。

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相続が起こった場合、必ずしも全ての財産を相続人が相続するとは限りません。例えば、相続するプラスの財産よりもマイナスの財産(負債)が多いときです。この場合には、相続してしまうとかえって負債を背負うことになりますので、この場合は相続放棄することになるでしょう。

一方、相続債務よりも相続財産のほうが明らかに多ければ、相続を承認することになるでしょう(相続の単純承認)。

このように、相続が起こった場合には、単に相続登記を手続きするというだけではことは足りず、実際には法的な判断をして、正しい手続きをスタートしなければならないということを知っておきたいものです。とはいえ、たいていの方が、相続については初めての経験で、何から何を始めたらいいのか?どこに相談したらいいのか?わからなくて困ってしまうということになるでしょう。

そんなことにならないために、まず覚えておきたいのが、相続登記のプロが誰か?ということです。相続登記の手続きをできるのは、法律のプロである、司法書士が一番のスペシャリストです。司法書士は、不動産登記と商業登記のスペシャリストとしての資格を取得したものがなれるので、司法書士に相談すれば、まずは間違いないということになるのです。

司法書士は、街の法律家とも言われていて、弁護士さんよりも気軽に相談しやすいかもしれないですね。司法書士に相談すると、必要な書類がどんなもので、どういう法律判断をすべきなのか?についてもことこまかに相談に載ってもらえるので、まずは、相続が起こったら司法書士の事務所を訪問するのがよいでしょう。

相続登記には、いろいろな法律文書の準備が必要となりますので、やはり、自分で申請するよりは、プロの手続きをお願いするのが間違いありません。
posted by souzoku at 17:13| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月04日

相続によるマンションの名義変更手続き

例えば、父親が亡くなって、住んでいたマンション等の相続をする場合を考えてみましょう。相続人は、母親と兄妹2人であったとします。そのマンションに母親が今も暮らしているのであれば、母親がマンションを相続し、母親に名義変更をするのが一般的でしょう。

もしも、法定相続分に基づいて遺産分割をするとすれば、母親が2分の1、兄と妹は4分の1ずつになります。母親がマンションを相続するとしたら、子供である兄・妹は、それ以外の金銭等を相続することになるでしょう。

もちろん、相続人全員が話し合って合意することにより、法定相続分以外の分け方も可能です。マンション以外に大きな財産がない場合には、相続税も発生しないはずです。その場合、母親が高齢でいずれ二次相続が発生する場合を見越して、母が亡くなった時にマンションを相続するのであろう兄または妹が相続するというのも1つです。

長男が家を継ぐのが良いのであれば兄が相続してもいいですし、兄は既に独立して生計を立てマイホームがあるという場合は、妹に相続させるという方法もあります。ただし、マンションだけであっても、資産価値が高く、相続税がかかるようなケースでは、母親名義にすることで、配偶者の相続税軽減の制度の適用が受けられ、母親の相続分または1億6千万円までは相続税がかからなくなります。

遺産分割をする際には、家族の現在の暮らし方や生活状況に配慮したうえ、相続税の支払いも含めて有利になるよう検討しましょう。また、マンションを所有するということは、その後の固定資産税の支払も生じてくるので、自ら暮らすならともかく、形だけ所有して固定資産税だけ払うなら要らない、という相続人もいるようです。

相続では、亡くなった方の権利義務全てを相続し、相続により新たに所有権を取得すれば、それに基づいた税金負担や、維持管理の費用などの負担も生じることも念頭におきましょう。

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さて、相続する人が決まって相続登記の名義変更をする際に必要となる書類をみてみましょう。一般的には司法書士に手続きを依頼してしまうと楽ですが、どのような書類が必要で、どこで取り寄せるのか確認しておきたいと思います。

亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)は、本籍地の役所から取り寄せます。転籍や離婚等で本籍地が変わっている場合は、全てが連続するよう、複数の役所や遠方の役所から取り寄せが必要になることもあります。

亡くなった方の住民票の除票または戸籍の付票は、最後の住所地の役所または本籍地の役所から取り寄せます。相続人全員の戸籍謄本は本籍地の役所から、住民票は住所地の役所で取ります。

遺産分割協議書に添付する印鑑証明書は、相続人それぞれの住所地で取ります。印鑑登録をしていない場合は、印鑑登録から手続きします。固定資産税の評価証明書はマンション所在地の役所や都市税事務所で取ります。マンションの権利証や納税通知書は自宅に保管してあるはずです。以上の書類に加え、登記申請書を作成し、登録免許税の納付も必要になります。登録免許税は、不動産価額の1000分の4です。

通常は分かる範囲で書類を揃えてから司法書士に相談に行くのが良いでしょう。司法書士は相続登記に必要な戸籍謄本や住民票などを依頼者に変わって取り寄せることができます。印鑑証明書以外のものについては、すべて司法書士に任せることができると考えて良いでしょう。

法務局に登記申請書と、必要な添付書類を提出してから1,2週間で登記が完了します。登記が完了すると登記識別情報が通知されます。かつては登記済の権利証が発行されましたが、現在では登記済証は廃止されており、変わって登記識別情報通知の制度が導入されているのです。
posted by souzoku at 19:21| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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